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labor 2025.08.01 約11分

タイの解雇補償金を完全整理:計算方法・手続き・日本人駐在員の注意点【連載第2回】

タイの通常解雇における解雇補償金の計算表(勤続120日〜20年以上)、予告義務、退職後3日以内の支払い義務、Mermaid図解の手続きフロー、日本人駐在員解雇時の注意点を解説。

この記事のポイント

  • タイの解雇補償金は勤続期間に応じて30日〜400日分の賃金で、2019年改正で最高額が大幅引き上げ
  • 解雇通知は原則として1賃金支払期間前に行い、即時解雇なら予告手当を追加で支払う必要がある
  • 退職後3日以内に全額支払わなければ、その後は1日あたり15%の割増が加算される

はじめに

前回(第1回)ではタイの解雇法制の全体像と日本との違いを解説しました。第2回では、最も実務的に重要な「通常解雇」の具体的な手続きと、解雇補償金の計算方法を徹底的に整理します。


1. 解雇予告のルール

原則:1賃金支払期間前の予告

タイ労働保護法第17条は、雇用契約を終了する場合、次の賃金支払日または次々の賃金支払日を以て発効するよう、前の賃金支払日に書面で通知することを求めています。

実務的には、多くの企業が月次払いのため、「解雇通知日から少なくとも1か月前に書面で通知する」と運用されることが一般的です。

例)

  • 毎月末払い、9月30日を退職日とする場合 → 8月31日(またはそれ以前) に解雇通知書を交付

即時解雇(予告なし解雇)の場合

予告期間を設けずに即時解雇する場合、使用者は**予告手当(Wages in Lieu of Notice)**を支払わなければなりません。金額は「解雇予告を与えていれば支払うべきであった賃金相当額」となります。

注意: 「予告手当」と「解雇補償金」は別の支払いです。即時解雇の場合は両方の支払いが必要になります。


2. 解雇補償金の計算

2019年改正で何が変わったか

2019年(B.E. 2562)の労働保護法改正で、解雇補償金の最高額が引き上げられました。改正前は勤続10年以上で最大300日分でしたが、改正後は勤続20年以上で400日分が新設されました。

解雇補償金計算表(勤続年数別)

勤続期間解雇補償金(日数)
120日以上 1年未満30日分
1年以上 3年未満90日分
3年以上 6年未満180日分
6年以上 10年未満240日分
10年以上 20年未満300日分
20年以上400日分(2019年改正で新設)

「賃金」の範囲: 計算の基礎となる「最終賃金」には基本給のほか、固定的に支払われている手当(住宅手当・役職手当等)が含まれる場合があります。歩合制の場合は直近90日間の平均日給を使用します。詳細は専門家に確認してください。

計算例

【ケース】月給10万バーツ、勤続7年の社員を通常解雇する場合

  • 1日あたりの賃金:100,000 ÷ 30 ≒ 3,333バーツ
  • 勤続7年は「6年以上10年未満」→ 240日分
  • 解雇補償金:3,333 × 240 = 約80万バーツ

3. 有給休暇の買い取り義務

解雇の際、使用者は従業員が未消化のまま残っている年次有給休暇の買い取りを義務付けられています(労働保護法第67条)。計算は1日分の賃金に未消化日数を乗じた金額です。


4. 退職後3日以内の全額支払い義務

労働保護法第70条は、解雇によって退職した従業員に対し、退職日から3日以内に未払い賃金・解雇補償金・有給休暇残日数の買い取り相当額をすべて支払うことを義務付けています。

期限を超えた場合のペナルティ: 支払期限を過ぎた場合、労働者は未払い額の**1日あたり15%の割増金(加算金)**を請求できます(第9条)。この割増率は非常に高く、迅速な支払いが必須です。


5. 通常解雇の手続きフロー

flowchart TD
    A[解雇方針決定] --> B["解雇補償金・<br/>予告手当の計算"]
    B --> C["解雇通知書の作成<br/>(書面・タイ語推奨)"]
    C --> D{予告あり?}
    D -- はい --> E["予告期間終了まで<br/>就労または自宅待機"]
    D -- いいえ --> F["予告手当の<br/>追加計算"]
    F --> G["退職日当日または<br/>3日以内に全額支払い"]
    E --> G
    G --> H["退職手続き<br/>社会保険・ワークパーミット等"]
    H --> I[完了]

6. 日本人駐在員を解雇する場合の特別注意点

日本人など外国人従業員を解雇する場合、通常の手続きに加えて以下の対応が必要です。

ワークパーミット(労働許可証)の取消申請

外国人従業員が退職した場合、退職日から15日以内に管轄の雇用局でワークパーミットの取消申請をしなければなりません(要確認:申請期限の詳細は当局に確認推奨)。申請を怠ると使用者側に罰則が課される場合があります。

ビザとの関係

ワークパーミットが取り消されると、それに紐付いたノンイミグラントBビザの在留期間にも影響します。従業員が帰国準備等のために十分な期間を確保できるよう、退職日と帰国日程の調整について当人とコミュニケーションを取ることが重要です。

社会保険の手続き

タイの社会保険(สำนักงานประกันสังคม)への退職報告も退職後30日以内に行う必要があります(要確認)。


まとめ

手続き期限・要件
解雇予告次回賃金支払日の1期間前(書面)
予告手当(即時解雇時)予告期間相当分の賃金
解雇補償金勤続年数に応じて30〜400日分
有給休暇買い取り未消化日数 × 日給
全額支払い期限退職日から3日以内
遅延ペナルティ未払い額の1日15%
WP取消申請(外国人)退職日から15日以内(要確認)

通常解雇は「補償金さえ払えばできる」ものですが、計算誤りや支払い遅延が新たなトラブルを生むことがあります。解雇を決定したら、まず補償金の正確な計算と支払い手順の確認から始めてください。

次回予告:第3回「懲戒解雇 ― 補償金なしで解雇できる6つのケースと落とし穴」


解雇手続きや補償金の計算について、個別にご確認されたい方はお気軽にご相談ください。

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本記事はタイの法制度に関する一般的な情報提供を目的としており、タイ法に基づく法的助言を構成するものではありません。具体的な案件については、タイの弁護士資格を有する専門家にご相談ください。当事務所では提携先JTJBのタイ人弁護士と連携して対応いたします。

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