タイの労働省雇用局(Department of Employment, DoE)が運用する「e-Work Permit System」が、2026年4月28日から完全運用に切り替わりました。これまで一部で残されていた紙申請の経過措置が終了し、新規申請・更新・取消・各種変更のいずれもオンライン申請が必須となります。BOI促進企業を含む全在タイ日系企業が対象であり、日本本社からの駐在員派遣スケジュールや人事異動オペレーションにも実務的な影響があります。本記事では、新フローの全体像、ThaiIDによる本人確認の論点、BOI Single Windowとの関係、そして日系企業が確認しておきたい5つのポイントを整理します。
何が変わったか — e-Work Permit System 完全運用開始
概要
タイにおいて外国人を雇用するためには、入国管理局所管のNon-Immigrant Bビザ(在留資格)と、労働省雇用局所管のワークパーミット(外国人就労許可証)の二本立てで手続を進める必要があります。今回完全運用に切り替わったのは、このうち雇用局側のワークパーミット手続です。
根拠法は外国人就労管理勅令(B.E. 2560 / 2017年)と2018年改正であり、電子申請システム自体は数年前から段階的に拡大されてきましたが、紙申請との並行運用が続いていました。今回の切り替えは、雇用局告示レベルの運用変更により、紙申請の受付窓口を廃止する形で実現されています。
対象手続と対象者
報道で公表されている範囲では、対象は次のとおりです。
- 対象手続:新規申請・更新・取消・変更(事業所変更、職位変更、氏名・パスポート情報の変更等を含む)
- 対象者:BOI促進企業を含むすべての外国人雇用主および外国人本人
- 紙申請:2026年4月28日以降は雇用局事務所窓口・地方雇用局事務所での紙提出を受け付けないとされています
- 利用ポータル:https://eworkpermit.doe.go.th/
「経過措置として地方事務所で紙申請を継続する」といった例外的運用については、現時点で雇用局公式の確認が取れません。実務上は完全オンライン化を前提に体制を組むことが望ましいといえます。
日本との比較
日本では、外国人を雇用する場合、出入国在留管理庁に対する在留資格認定証明書(COE)の交付申請を起点として、本国での査証発給、入国後の在留カード取得という流れが一体的に管理されています。在留資格の中に「就労可能な範囲」が規定されており、別途のワークパーミットは存在しません。
これに対しタイは、入管法(在留資格=Non-Immigrant Bビザ)と労働省所管の外国人就労管理勅令(ワークパーミット)が二本立てで運用されている点が大きく異なります。今回のオンライン化は、このうち労働省側の手続を完全電子化したものであり、ビザ側(入国管理局)の手続とは別管理である点に注意が必要です。
ThaiIDによる本人確認 — 雇用主・代理人・外国人本人がそれぞれ取得
新システムで重要になるのが、本人確認に「ThaiID」(内務省登録局所管の電子身分証アプリ)が用いられる点です。
ThaiIDの位置付け
ThaiIDは、タイの内務省登録局(Bureau of Registration Administration)が提供する公式の電子身分証スマートフォンアプリで、タイ国民の本人認証に広く利用されています。雇用局のe-Work Permit Systemでも、雇用主側の代理申請者・外国人本人の双方の本人確認手段として組み込まれています。
関係者の登録イメージ
現時点で公開されている情報の範囲では、概ね以下の流れで進みます。
- 雇用主側でHR担当者・社内法務担当者などが代理申請者として登録
- 外国人本人もパスポート・ビザ情報をもとに利用者登録
- それぞれがThaiIDで本人確認を完了させたうえで、e-Work Permit Systemにログイン
- 必要書類はPDF等の電子データでアップロード
実務上の留意点
実務上は、駐在員本人がタイ入国前にThaiID登録を完結できるか、初期赴任直後の段階で本人確認をどこまで進められるかといった点が論点となります。運用の詳細は今後の公式アナウンスメントで明確化される見込みであり、当面はタイ現地のHR担当者・委任を受けた代行業者がフローを実地に確認しつつ進める運用が一般的と考えられます。
BOI促進企業への影響 — Single Windowは引き続き利用可能
BOI(投資委員会)の促進を受けている企業については、引き続きBOIの「Single Window for Visas and Work Permits」(swe-expert.boi.go.th / swboi.boi.go.th)を通じた一括申請が可能です。
このSingle Windowは、入国管理局のNon-Immigrant Bビザ申請とDoEのワークパーミット申請を一元処理する仕組みで、BOI促進企業向けの優遇措置の一つとして長年運用されてきました。BOI企業の場合、雇用局のe-Work Permitポータルではなく、BOI側のSingle Window経由で完結できる点が一般企業との大きな違いです。
実務上は、BOI促進企業向けには迅速処理が運用されているとされますが、具体的な処理日数や運用詳細は時期によって変動するため、最新の運用は所管のBOIオフィス・代行業者を通じて確認することをお勧めします。
日系企業が確認しておきたい5つのポイント
① 代理申請者の事前登録
HR担当者や、外部の代行業者がe-Work Permit System上で代理申請者として登録され、ThaiIDによる本人確認を済ませているか、社内で確認しておきたい論点です。代理申請者が未登録のままでは、駐在員のワークパーミット申請に着手できないことになります。
② 新任駐在員の手続スケジュールの見直し
紙申請時代と比べて、入国前のNon-Immigrant Bビザ取得 → 入国 → ThaiID取得 → ワークパーミット申請という流れの中で、ThaiIDの取得タイミングが新たな論点となります。特に、初任地への赴任直後にすぐ業務開始が必要なケースでは、ビザ取得とワークパーミット申請の間隔を従来より余裕を持って設計しておくことの検討が考えられます。
③ 更新時期の前倒し対応
これまで実務上は、更新時に窓口で書類を差し替えながら進める運用も一部で見られましたが、完全オンライン化後はこうした柔軟対応はできなくなります。必要書類は事前にPDFで整備し、更新期限の前倒しで申請に着手する体制が望まれます。
④ 就業条件変更時の電子申請
役職変更・給与変更・事業所変更といった就業条件の変更も、原則として電子申請の対象です。日本本社の人事異動のタイミングと、タイ側のワークパーミット変更申請のタイミングを早めにすり合わせておく運用が望まれます。
⑤ ID/パスワード管理とシステム障害時のリスク
オンライン完結化に伴い、代理申請者のID・パスワード管理、ThaiIDアプリの引継ぎ(HR担当者の異動時)、サーバー混雑時の対応などを社内ルールとして整備しておくことが、地味ではあるものの重要なポイントです。
日本の在留申請制度との比較
冒頭でも触れましたが、改めて整理しておきます。
| 論点 | 日本 | タイ |
|---|---|---|
| 在留資格と就労資格 | 一体(在留資格に就労範囲が含まれる) | 別建て(ビザとワークパーミット) |
| 所管 | 出入国在留管理庁 | 入国管理局+労働省雇用局 |
| オンライン化 | 在留申請オンラインシステムが段階的に拡大、紙申請も併存 | 紙申請を完全廃止(2026年4月28日〜) |
| 本人認証 | マイナンバーカード等を用いる場面が一部 | ThaiID(電子身分証アプリ)が中核 |
日本本社の人事担当者が「日本の感覚」でタイの手続を捉えると、ビザとワークパーミットの二本立てや、ThaiIDの位置付けで齟齬が生じやすくなります。タイ現地のHR・代行業者と早めに連携することが望まれます。
まとめ — タイ政府のデジタルガバメント方針との連動
今回の雇用局による完全オンライン化は、それ単独の動きというよりは、タイ政府全体のデジタルガバメント方針の一環として位置づけることができます。商務省(DBD)のノミニー対策における電子データ活用、中央銀行(BoT)の金融データ共有規則、そして4月29日に調印された21機関ノミニー対策MoUなど、各省庁の手続が次々と電子化・データ連携の方向に進んでいます。
日系企業にとっては、紙ベースの慣行を改めて棚卸しし、現地HR体制をデジタル運用に対応させていくタイミングといえます。代理申請者の登録、ThaiIDの整備、更新スケジュールの見直しなど、地に足の着いた対応を一つずつ進めていくことが望まれます。
当事務所では、タイにおける外国人就労許可(ワークパーミット)・在留資格(Non-Immigrant Bビザ)に関するご相談を承っております。BOI促進企業向けのSingle Window対応、駐在員派遣スケジュールの見直し、現地HR体制の整備など、日本法・タイ法の両面からアドバイスいたします。お気軽にお問い合わせください。
本記事は2026年4月時点の公開情報に基づく一般的な情報提供を目的としており、タイ法に基づく法的助言を構成するものではありません。具体的な案件については、タイの弁護士資格を有する専門家にご相談ください。当事務所では提携先JTJBのタイ人弁護士と連携して対応いたします。