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legal 2026.04.23 約10分

【タイ企業の日本進出】第1回 進出形態の選び方 ― 現地法人・支店・駐在員事務所・合弁の使い分け

日本進出を検討するタイ企業向けに、4つの進出形態(株式会社・合同会社・支店・駐在員事務所・合弁)の特徴・コスト・責任範囲・撤退難易度を比較し、意思決定フローと実務Tipsを整理します。タイ企業の日本進出シリーズ全6回の第1回。

これまで当サイトでは日本企業のタイ進出を中心に扱ってきましたが、今回から新しく**「タイ企業の日本進出」シリーズ**を全6回でお届けします。食品・自動車部品・物流・ホスピタリティ・スタートアップなど、タイ資本の日本進出案件はここ数年で着実に増えており、タイ側の外貨送金規制と日本側の会社法・外為法・入管法・租税条約を横断的に整理した情報の需要は高まっています。本シリーズは、そのギャップを埋めるためのコンテンツです。

全6回の構成は、第1回が本記事の進出形態論、第2回が外為法の対内直接投資規制、第3回が会社設立の実務、第4回が経営管理ビザ、第5回が税務と日本・タイ租税条約、第6回が労務・雇用です。本記事は2026年4月時点の公開情報を基準としています。

本シリーズの読者はタイ企業・タイ資本側であり、進出先は日本です。そのため、これまでの記事とは視点が逆になります。「日本ではこうなる/一方、タイでは〜」という順で記述していきます。


なぜ進出形態の選択が最初の関門なのか

タイ企業が日本進出を考えるとき、最初に意思決定が必要になるのが進出形態の選択です。日本の制度では、①現地法人(株式会社または合同会社)、②支店、③駐在員事務所、④合弁、の4類型があり、法人格・課税関係・責任範囲・コスト・撤退難易度のすべてが大きく異なります。

後から形態を変更することは可能ですが、駐在員事務所から現地法人へ切り替えると、契約の巻き直し・銀行口座の再開設・従業員の再雇用・税務上の整合確認が必要になり、相応の時間とコストがかかります。タイ企業にとって馴染みのある外国人事業法(FBA)の業種規制的な発想で日本の制度を眺めてしまうと判断を誤りやすいので、まず4類型を整理するのが近道です。


4つの進出形態

① 現地法人(株式会社/合同会社)

タイ親会社が出資して独立した日本法人を新設するのが現地法人方式です。日本では株式会社(Kabushiki Kaisha, KK)と合同会社(Godo Kaisha, GK、日本版LLC)の2類型が主に使われます。親会社の責任は原則として出資額までに限定され、日本で営業活動・雇用・課税関係を完結できます。

株式会社と合同会社の使い分けは以下のとおりです。

項目株式会社(KK)合同会社(GK)
機関設計株主総会+取締役は必須、取締役会・監査役は任意社員=出資者が業務執行(機関設計が柔軟)
定款認証公証人による認証が必要不要
設立コスト(実費概算)約25万円(登録免許税15万円+定款認証約5万円 等)約10万円(登録免許税6万円 等)
対外的信用高い(上場企業・大手取引先で一般的)取引先によっては「株式会社でないと取引しない」運用あり
IPO・M&A適合性高い株式会社への組織変更を要するケースが多い
法人税同一(税務上の差は原則なし)同一

ガバナンス・信用・将来のIPOを重視するなら株式会社、スピードとコストを重視するなら合同会社、というのが実務上のおおまかな分かれ目です。最新の登記実費は法務局で確認してください。

※ 2024年12月1日施行の公証人手数料令改正により、株式会社の定款認証手数料は、資本金100万円未満かつ発起人全員が3人以下の自然人で発起人が設立時発行株式の全部を引受け取締役会非設置の場合、1万5,000円に半額化されました。ただしタイ親会社が発起人となる対日進出案件では発起人が法人となるため半額化の対象外となり、本表記載の3〜5万円(資本金額別)が引き続き適用されます。

② 支店(外国会社の日本営業所)

日本法人を作らず、タイ本社の一部として日本に営業所を置く形態です。会社法第818条から第823条が外国会社の規律を定めており、商業登記法に基づいて商業登記が必要です。日本における代表者を1名以上定め、そのうち少なくとも1名は日本に住所を有する者でなければなりません。

契約の名義はタイ本社になり、日本での活動から生じる契約責任はタイ本社が直接負います。課税上は恒久的施設(PE, Permanent Establishment)として日本に帰属する所得に法人税が課されます。PE課税の具体的論点は第5回で扱います。

注意が必要なのがみなし外国会社(会社法第821条)の規律です。主たる事業活動を日本で行うことを目的とする外国会社は、継続して日本で取引することができません。準拠法の潜脱を防ぐ趣旨で、支店形態で日本を「主戦場」にしようとする場合の構造的な限界になります。

③ 駐在員事務所(Representative Office)

法人登記が不要で、原則として法人税も課されない最も軽量な形態です。活動範囲は厳しく限定されており、本社のための情報収集・市場調査・広報・商品や資料の購入・海外関連者との連絡までが許されます。一方、営業活動・契約締結・代金受領は不可で、これらを行うと支店または現地法人への転換が必要になります。

駐在員の給与には所得税が生じますが、活動範囲を超えない限り法人税は発生しません。設立・運営コストは最低ですが、将来の事業拡大時に支店・現地法人への転換コストが発生することを計画に織り込む必要があります。

④ 合弁(Joint Venture)

日本側パートナーと共同で新会社を設立する形態です。設立する器は株式会社でも合同会社でも構いません。ポイントは株主間契約(Shareholders’ Agreement, SHA)の設計で、取締役構成・拒否権事項・デッドロック解消・Exit(持分譲渡・タグアロング・ドラッグアロング)の各条項が将来の実効性を左右します。

タイ側出資比率が10%以上であれば、後述のとおり外為法の対内直接投資規制の対象になります。合弁契約の準拠法と紛争解決条項(仲裁地・仲裁機関)の設計は、本シリーズ姉妹編として位置付けられる契約書実務シリーズ第5回(紛争解決条項)と同じ思考枠組みで進めます。


4類型の比較表

項目現地法人(KK/GK)支店駐在員事務所合弁(JV)
日本法人格あり(独立)なし(本社の一部)なしあり(独立)
対内直接投資該当該当(支店設置)原則非該当該当
商業登記必要必要(外国会社)不要必要
営業活動不可
契約締結自社名義タイ本社名義不可合弁会社名義
法人税全世界所得(内国法人)PE帰属所得のみ原則なし全世界所得
本社の責任出資額まで本社に直接及ぶ本社活動の範囲出資額まで
設立コスト中〜高中〜高
撤退コスト清算手続(6〜12か月)閉鎖登記(比較的簡易)閉鎖手続(簡易)JV契約解消+清算
対外信用高(特にKK)パートナー次第
ビザ取得経営・管理等企業内転勤/経営・管理企業内転勤経営・管理等

意思決定フレーム ― 4ステップで絞り込む

  • Step 1:日本で営業活動・契約締結・請求を行うか?
    • いいえ(情報収集・市場調査のみ)→ 駐在員事務所
    • はい → Step 2 へ
  • Step 2:日本側パートナーと共同経営するか?
    • はい → 合弁(SHA・拒否権・Exit を設計)
    • いいえ → Step 3 へ
  • Step 3:親会社の責任を分離したいか/将来のIPO・M&A・大型調達を想定するか?
    • はい → 現地法人(ガバナンス・信用重視なら株式会社)
    • いいえ(小規模・短期想定)→ 支店 または 合同会社
  • Step 4:対内直接投資の事前届出対象業種か?
    • 対象なら事前届出+審査(目安30日)を進出スケジュールに織り込む(第2回で詳述)

タイ側の論点 ― BOT規制と親会社内の決議

タイから日本への投資は、タイ中央銀行(BOT)の外国為替管理規則の下にあります。BOTの外貨送金規則では、タイ居住者の対外直接投資は一定の条件・金額枠の下で事前承認を要さずに行えますが、金額・業種・関連当事者性によっては事前承認が必要になる場合があります。最新の枠と手続はBOTのFX規制ページで確認してください。日本進出の資金計画はこのBOT側手続と一体で組む必要があります。

タイ親会社の社内手続としては、会社規模に応じた取締役会決議・株主総会決議が必要です。対外投資による配当受取時の法人税・源泉税は、日本・タイ租税条約の適用を踏まえて設計します(詳細は第5回)。BOIのThai Overseas Investment Support Center(TOISC)の支援メニューも、対象業種によっては活用余地があります。


日本とタイの制度比較 ― 実務Tips

読者の出発点であるタイの制度と、進出先である日本の制度には、以下のような構造的な違いがあります。

論点日本タイ
外資規制の中心外為法の対内直接投資規制(指定業種の事前届出)外国人事業法(FBA)の業種リスト規制
最低資本金原則1円(ただし2025年10月16日施行の上陸基準省令改正により「経営・管理」ビザの取得には資本金等3,000万円以上が必要・第4回参照)200万バーツ/雇用外国人あたり(BOI非該当の場合)
外国人・外国法人の土地所有原則自由原則不可(BOI認可等の例外あり)
会社設立手続法務局への登記申請が必須(司法書士・行政書士が関与する実務)DBDのオンライン完結の方向で進展
新設法人の消費税資本金1,000万円未満なら原則2年間免除(ただし2024年10月以降開始の課税期間からは、親会社等の判定対象者の年間収入が国外収入を含めて50億円を超える場合等は特定新規設立法人として初年度から課税対象。CP・SCBクラスの大規模タイ親会社100%出資子会社は要注意)VATは登録売上超過で義務

よくある実務上の落とし穴

  • 駐在員事務所で営業してしまう ― 活動範囲を超えた契約締結・請求があると、税務上はPE認定のリスク、入管上は在留資格の逸脱のリスクが生じます
  • 合同会社で始めたが取引先から『株式会社でないと取引できない』と言われる ― 公的機関・大手との取引を想定する場合は最初から株式会社が無難です
  • 合弁で拒否権の設計が甘いまま少数株主に入る ― 重要事項の拒否権・デッドロック解消・Exit条項が未整備だと、意思決定から排除される「サイレントマイノリティ」になりやすい
  • 対内直接投資の事前届出を失念する ― 指定業種に該当する場合、届出前の投資実行は違法となり得ます(第2回で詳述)
  • 代表取締役を日本非居住者のみで固める ― 登記自体は可能でも、銀行口座開設・税務届出・日常運営で支障が出るケースが多く、1名は日本居住者を置く設計が実務的に安全です

次回予告

第2回では、進出形態を決めた次のステップ「対内直接投資規制と外為法」を取り上げます。タイ企業が見落としがちな事前届出業種(指定業種)、届出フロー(日本銀行経由で財務省・事業所管省庁へ)、審査期間、国の安全・公の秩序・公衆の安全の観点からの審査の実情を整理します。


お問い合わせ

タイ企業・タイ資本による日本進出について、会社法・外為法・入管法・租税条約の各側面から、JTJBバンコクオフィス(タイ法・現地実務)と弁護士法人戸野・田並・小佐田法律事務所(東京・日本法全般)が連携してワンストップでサポートいたします。進出形態の比較検討段階からお気軽にお問い合わせください。


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本記事は2026年4月時点の公開情報に基づく一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言を構成するものではありません。具体的な案件については、必ず専門家にご相談ください。当事務所ではJTJB International Lawyersのタイ人弁護士および弁護士法人戸野・田並・小佐田法律事務所の日本法弁護士が連携して対応いたします。

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