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legal 2026.04.28 約13分

【タイ企業の日本進出】第5回 税務 — 法人税・消費税・日本=タイ租税条約の使い方

日本に子会社をつくったタイ企業の経営者・CFO・経理担当者の方へ。日本子会社が毎年負担する法人税・地方税はどう構成されているのか、タイ本社へ配当・利子・ロイヤルティを送金するときどれくらい源泉徴収されるのか、日タイ租税条約を使うと税率はどう下がるのか、その手続は何が必要か。さらに、CP・SCB・PTTクラスのタイ大企業の100%子会社が初年度から消費税課税事業者になりうる「特定新規設立法人ルール」、グローバル・ミニマム課税、タイ本社側の受取配当の扱いまで、運営フェーズで必ず押さえておきたい税務の基本を、できるだけ平易にまとめました。タイ企業の日本進出シリーズ全6回の第5回です。

本記事は「タイ企業の日本進出」シリーズ全6回の第5回です。第1回で進出形態、第2回で外為法、第3回で会社設立、第4回で経営管理ビザを整理した読者が、運営フェーズで直面するのが税務論点です。本記事は2026年4月時点の公開情報を基準とし、日本子会社の法人税構造、日タイ租税条約による限度税率、移転価格、特定新規設立法人ルール、グローバル・ミニマム課税、タイ側の課税論点までを整理します。

【重要な注意】 税務は他の法分野以上に改正や通達変更が激しい領域です。本記事は制度の全体像を理解していただくための一般的な解説であり、具体的な税率・限度税率・閾値・期限・申告様式は、税務署・税理士・公認会計士にご確認ください。


第5回で扱う論点の俯瞰

タイ企業が日本子会社を運営する際、税務は次の7層で整理できます。

  1. 日本子会社の税負担構造 — 法人税・地方法人税・住民税・事業税・特別法人事業税
  2. タイ親会社への支払と源泉徴収 — 配当・利子・使用料・サービスフィーと日タイ租税条約
  3. 支店形態を選んだ場合のPE課税 — 第1回で支店を選択した読者向け
  4. 関連者間取引の規律 — 移転価格・国外関連者寄附金・過少資本・過大支払利子
  5. 消費税の特定新規設立法人ルール — 大規模タイ親会社の100%子会社固有の論点(2024年10月改正)
  6. グローバル・ミニマム課税(Pillar 2) — 連結7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループ
  7. タイ側の課税論点 — 受取配当課税・外国税額控除・タイ移転価格税制

1. 日本子会社の税負担構造

日本で設立した子会社は内国法人として、原則として全世界所得に法人税が課されます(法人税法4条・5条)。日本子会社が負担する主な税目は次の5種類です。

表1:日本子会社の主要税目

税目課税主体課税ベース備考
法人税国(国税)各事業年度の所得基本税率のほか、中小法人軽減税率(年800万円以下部分)あり
地方法人税国(国税)法人税額に対する一定割合地方への財源調整目的
法人住民税(道府県・市町村)地方法人税割(法人税額ベース)+均等割自治体ごとに超過税率あり
法人事業税地方所得割(外形対象法人は付加価値割・資本割を併課)資本金1億円超の普通法人は外形標準課税対象
特別法人事業税国(国税)法人事業税の所得割相当額法人事業税と併せて申告納付

国税と地方税を合算した法人実効税率は概ね30%前後とされていますが、資本金規模・本店所在自治体・事業年度・各種税制改正により変動します。中小法人軽減税率(租税特別措置法42条の3の2)は時限措置として延長を繰り返しているため、適用可否・税率・期間は最新確認が必要です。

上記税率の具体的な数値は随時改正される可能性があります。最新の税率は税務署や税理士にご確認ください。


2. タイ親会社への支払と日タイ租税条約

2-1 国内法と租税条約の二段構造

日本子会社からタイ親会社(日本から見れば外国法人・非居住者)への支払のうち、所得税法161条の国内源泉所得に該当するものは、所得税法212条以下に基づき支払時に源泉徴収が必要です。

源泉徴収率には二段構造があります。

  • 国内法の源泉税率(所得税法)— 高めに設定されている
  • 日タイ租税条約の限度税率(条約10条配当・11条利子・12条使用料)— 国内法を上回る場合に税率を限定

2-2 日タイ租税条約の枠組み

所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とタイ王国との間の条約」(1990年4月7日署名、1990年8月24日効力発生)が現行条約です。同条約は外務省条約データベースおよび財務省「我が国の租税条約等の一覧」で原文(和文・英文・タイ文)を確認できます。

主要条文の役割は次のとおりです。

条文対象概要
第5条恒久的施設(PE)支店・建設PE・代理人PE等の定義
第7条事業所得PE帰属所得課税の原則
第10条配当限度税率(持株比率等で分岐する構造)
第11条利子限度税率(金融機関等への特例あり)
第12条使用料限度税率(著作権・特許権・ノウハウ等の対価)
第22条二重課税の排除タイ側の外国税額控除
第24条相互協議移転価格紛争の二国間協議

2-3 限度税率の適用と「租税条約に関する届出書」

条約の限度税率を適用するためには、支払前に「租税条約に関する届出書」を所轄税務署に提出することが必要です(実特法・同施行令・施行規則)。届出書を提出していなければ、原則として国内法の源泉税率で源泉徴収しなければなりません。配当用・利子用・使用料用で様式が分かれています。最新様式は国税庁公式サイトでご確認ください。

表2:タイ親会社への支払時の源泉徴収(概念整理)

支払の種類国内法日タイ租税条約実務ポイント
配当所得税法212条以下の国内法源泉税率第10条の限度税率(持株比率等により分岐支払前に届出書提出。親子会社間配当は持株比率要件の充足を確認
利子同上第11条の限度税率(金融機関等の特例あり親子ローンの利息支払は要件確認
使用料同上第12条の限度税率ノウハウ・商標・著作権の区分とライセンス契約書の整合
サービスフィー案件次第第5条・第7条PE該当性の判定が中心論点

各条約条文の具体的な限度税率(%)や持株比率・金融機関等の分岐要件は、租税条約の原文を確認するか、税理士・専門家にお尋ねください。改正議定書やBEPS防止措置実施条約(MLI)による修正の有無も併せて確認が必要です。届出書様式は国税庁「租税条約に関する届出書」を参照してください。

2-4 MLIの影響

BEPS防止措置実施条約(MLI)は、対象租税条約に特典制限条項(LOB)・主要目的テスト(PPT)・PE定義の拡張等を一括導入する多数国間条約です。日本は2018年に寄託、タイは2022年に寄託しており、両国における効力発生日と日タイ租税条約への適用条文は最新情報の確認が必要です。租税条約上の特典(限度税率の適用等)について、PPT等により、主要目的が条約特典の取得である場合は特典が否認されうる点に留意が必要です。


3. 支店形態を選んだ場合のPE課税

第1回で支店形態を選んだ場合、タイ親会社(外国法人)が日本に恒久的施設(PE)を有することになります。日タイ租税条約5条のPE定義に該当する場合、同条約7条に基づきPEに帰属する所得が日本の課税対象となり、内国法人と同様の方法で法人税・地方税が課されます(法人税法141条・142条)。

駐在員事務所は、市場調査・情報収集等の準備的・補助的な活動に限定されている限りPEには該当しません。ただし、契約締結代理人として行動する場合や、本国本店の事業の本質的な部分を遂行する場合は代理人PE・サービスPEとして認定されるリスクがあります。


4. 関連者間取引の規律 — 移転価格・国外関連者寄附金

4-1 移転価格税制(租税特別措置法66条の4)

タイ親会社と日本子会社の関連者間取引は、国外関連者間取引に該当し、独立企業間価格(ALP:Arm’s Length Price)で行うことが要求されます。対象となる典型的な取引は、製品・原材料の売買、経営指導料、技術役務料、ロイヤルティ、親子ローン等です。

表3:移転価格関連の文書化義務(概念)

文書概要対象判定
ローカルファイル個別取引のALP分析・選定方法一定金額以上の国外関連者間取引がある場合に同時文書化義務
マスターファイル多国籍企業グループ全体の組織・事業概要大規模多国籍企業グループ
CbCR(国別報告事項)国別の収入・税額等の報告同上

各文書の具体的な金額閾値・対象法人判定基準は、租税特別措置法・関連省令・国税庁公表値で必ず最新確認してください。

4-2 国外関連者寄附金の損金不算入(法人税法37条7項)

タイ親会社に対する経済的利益の無償供与(無利息貸付、低額譲渡、債権放棄、過大なロイヤルティ等で対価性のないもの)は、国外関連者寄附金として全額損金不算入となります。移転価格課税と国外関連者寄附金課税は別建てで適用される点に留意が必要です。

4-3 過少資本税制・過大支払利子税制

  • 過少資本税制(租税特別措置法66条の5):国外支配株主等からの負債が一定の倍率を超える場合、超過部分の支払利子の損金算入を否認
  • 過大支払利子税制(同66条の5の2):純支払利子等の額がEBITDA基準額を超える場合、超過額の損金算入を否認

タイ親会社からの過大な親子ローンは、両制度のいずれにも抵触しうるため、資本と負債のバランス、利率水準、EBITDA水準を考慮した設計が必要です。


5. 消費税の特定新規設立法人ルール(重点論点)

これは大規模タイ親会社(CP・SCB・PTT・Charoen Pokphand・Siam Cementクラス)の100%出資子会社にとって最も実務的影響の大きい論点です。

5-1 消費税の納税義務免除の枠組み

消費税法9条は、基準期間(前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下の事業者を免税事業者とする原則を定めています。新設法人にはこの基準期間がないため、特例で対応します。

5-2 新設法人特例(消費税法12条の2)

新設法人の事業年度開始日の資本金が1,000万円以上の場合、設立後2期間は課税事業者となります。

5-3 特定新規設立法人ルール(消費税法12条の3)— 2024年10月改正

新設法人の発行済株式の50%超を、特定要件を満たす者およびその特殊関係法人(≒大規模な親会社グループ)が直接・間接に保有する場合、設立初年度から課税事業者となります。

令和6年(2024年)10月1日以後に開始する課税期間から、判定基準が拡大されました。

判定要素改正前改正後(2024/10/1以後開始課税期間)
判定対象者の課税売上高基準基準期間相当期間の課税売上高が5億円超同左
追加された基準判定対象者の売上金額・収入金額その他の収益の額の合計額が50億円超国外収入を含む

改正のポイントは、国外売上を含めた総収入50億円超という新基準が追加されたことです。CP・SCB・PTTといったタイの大規模コングロマリットは連結ベースで余裕で50億円を超えるため、その100%出資の日本子会社は、設立初年度から消費税の課税事業者となる可能性が極めて高くなります。

5-4 インボイス制度との整合

第3回で扱ったとおり、適格請求書発行事業者(インボイス)登録は取引先との関係上、新設法人でも設立日付近で取得するのが実務です。特定新規設立法人として初年度から課税事業者となる場合、インボイス登録のメリットはより明確になります。

表4:消費税の納税義務判定フロー

[新設のタイ親会社の100%日本子会社]


[Q1: 資本金1,000万円以上か?]
   ├ Yes → 課税事業者(消費税法12条の2)
   └ No  ─┐

[Q2: 親会社等の特定要件該当者の総収入が50億円超か?]
   ├ Yes → 課税事業者(消費税法12条の3 — 特定新規設立法人)
   └ No  → 通常は免税事業者(基準期間1,000万円以下要件)

特定新規設立法人ルールの詳細要件(判定対象者の範囲・収入金額の集計方法・特殊関係法人の範囲等)は、国税庁No.6503および消費税法12条の3・関連通達で必ず最新確認してください。


6. グローバル・ミニマム課税(GloBE / Pillar 2)

OECD/G20のBEPS包摂的枠組みで合意されたグローバル・ミニマム課税は、日本では租税特別措置法82条以下として法制化され、令和6年(2024年)4月1日以後に開始する対象会計年度から所得合算ルール(IIR)が適用されています。

表5:GloBE / Pillar 2 の対象判定

項目内容
対象特定多国籍企業グループ等の構成会社等
連結収入金額閾値連結総収入金額7億5,000万ユーロ相当額以上(前4対象会計年度のうち2以上で達成)
基準税率各国ごとに**実効税率15%**を確保
日本の適用開始2024年4月1日以後開始事業年度(IIRから順次)
主要税目各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税(IIR)/QDMTT/UTPR

CP・Charoen Pokphand・SCBクラスのタイ系コングロマリットが日本子会社を持つ場合、Pillar 2対象グループとして情報申告義務が発生します。タイ側のQDMTT(適格国内最低トップアップ税)導入状況も併せて確認が必要です。

詳細な計算・適用要件は国税庁グローバル・ミニマム課税関係で必ず最新確認してください。


7. タイ側の課税論点

7-1 受取配当のタイ法人所得税

タイ歳入法上、外国子会社からの受取配当は一定要件下で免税となる規定があります。要件には持株比率・保有期間・課税済所得要件等が含まれますが、具体的内容はタイ歳入法・関連Royal Decree・通達で最新確認が必要です。免税要件を満たさない場合は、タイCIT(標準20%)の課税対象となり、外国税額控除(FTC)で日本側の源泉税を控除する設計になります。

7-2 タイ側移転価格税制(2019年導入)

タイ歳入法76条の2・76条の3により、タイ側にも移転価格税制と文書化義務が導入されています。タイ親会社は日本子会社との取引について、タイ歳入局向けのローカルファイルを整備する必要があり、日本側の移転価格文書化との両建て対応が求められます。

7-3 タイから日本への支払時源泉徴収

通常の進出パターン(日本子会社からタイ親会社への配当・ロイヤルティ等)では日本側の源泉徴収が論点となりますが、逆方向(タイ親会社から日本子会社へのサービスフィー・ロイヤルティ等の支払)では、タイ歳入法70条の2に基づくタイ側の源泉徴収が論点になります。日タイ租税条約の限度税率は両方向で適用されます。

7-4 タイCIT・VAT・SBTの基本

税目税率
タイCIT(標準)20%
タイCIT(中小・BOI優遇)軽減・免税あり
VAT7%(Royal Decreeによる延長措置・2027年9月30日まで
SBT(特定事業税)業種別

タイ側の税率・優遇要件はタイ歳入局公式で必ず最新確認してください。


8. 実務スケジュール

表6:D-0からの主要税務イベント

D-0       ── 法人成立、法人番号付番
D+7       ── 法人設立届出書(税務署)/適格請求書発行事業者登録
D+30      ── 給与支払事務所等開設届(給与開始時)
D+90      ── 青色申告承認申請書
随時      ── 配当・利子・使用料支払時 → 「租税条約に関する届出書」を支払前提出
事業年度内 ── 移転価格文書(ローカルファイル)の同時文書化
事業年度終了
+2か月    ── 法人税・消費税・地方税の確定申告
+3か月    ── (申告期限延長特例適用時の法人税・地方税申告)

詳細な届出書類は第3回も併せて参照してください。


9. 典型的な落とし穴

表7:実務でよく見る落とし穴8項目と対応策

#落とし穴対応策
1「租税条約に関する届出書」を支払前に提出せず国内法源泉税率で源泉徴収配当・利子・使用料の支払スケジュール前に届出書提出を組み込む
2特定新規設立法人ルールを失念し初年度を免税扱いで処理大規模親会社グループの100%子会社は原則課税事業者の前提で設計
3インボイス登録の遅延による取引先信用低下設立日付近で適格請求書発行事業者登録を取得
4親子間ロイヤルティ・サービスフィーがALPと乖離し移転価格課税ベンチマーク分析・ローカルファイル作成・契約書整合
5タイ親会社からの過大借入で過少資本・過大支払利子の損金不算入資本と負債のバランス、利率水準、EBITDA水準を事前検討
6タイ側で日本子会社配当を益金算入し外国税額控除を取り損ねる/免税要件未充足のまま免税扱いタイ歳入局でタイ側の外国子会社配当免税要件を必ず最新確認
7Pillar 2対象の大規模グループでQDMTT・情報申告漏れ連結7.5億ユーロ閾値該当の確認、グループ税務部門との連携
8日タイ租税条約の限度税率を古い解説で確認し議定書・MLI修正後の最新条文未確認外務省条約データベースの原文+MLI適用状況を都度確認

次回予告

最終回となる第6回では、労務・雇用 — 日本人雇用の基礎と就業規則を扱います。雇用契約、就業規則の作成と届出(労基法89条)、社会保険・労働保険、最低賃金、長時間労働規制(36協定)、解雇規制と雇止めルール、有期雇用・無期転換ルール(労契法18条)等、タイ労働保護法と異なる日本側の労務実務を整理し、シリーズ全体の総括を行います。


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本記事は2026年4月時点の公開情報に基づく一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的・税務的助言を構成するものではありません。法人税法・消費税法・租税特別措置法・地方税法・所得税法・実特法・日本=タイ租税条約・BEPS防止措置実施条約(MLI)・タイ歳入法・各種通達は頻繁に改正されます。本記事に記載した税率・限度税率・閾値・期限・申告期日・届出様式等は記事執筆時点の公開情報に基づくものであり、最新の数値・要件は国税庁・財務省・外務省(条約原文)・タイ歳入局および税務署・税理士・公認会計士の確認をお願いいたします。具体的な税務判断は必ず専門家にご相談ください。当事務所ではJTJB International Lawyersのタイ人弁護士および弁護士法人戸野・田並・小佐田法律事務所の日本法弁護士・連携税理士が連携して対応いたします。

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