この記事のポイント
- 2025〜2026年のタイは「法改正ラッシュ」の時代。複数の重要法改正が同時進行している
- FBA・労働法・BOI・コンプライアンス・関税の5分野それぞれに実務対応が必要
- 本記事は各テーマの詳細解説記事へのナビゲーション役。まずここで全体像を把握しよう
はじめに — なぜ今「タイ法改正ラッシュ」なのか
タイでは今、複数の重要な法改正・制度変更が同時進行しています。その背景には三つの大きな力が働いています。
① OECDへの加盟プロセス:外資規制・労働基準・腐敗防止の国際標準への接近が求められています。
② BCG経済政策(Bio-Circular-Green):産業政策の転換に合わせ、BOI奨励業種の再設計・グリーン産業への優遇拡充が進んでいます。
③ デジタル経済・EC市場の急拡大:越境EC・プラットフォーム経済の台頭に対応するため、関税制度・VAT登録義務等のデジタル課税が整備されています。
これらが重なる2025〜2026年は、タイ進出の日系企業にとって「変化に乗り遅れるリスク」と「変化を先取りするチャンス」が同時に存在する局面です。本記事では、当事務所がこれまで解説してきた5つのテーマを横断的に整理し、「今すぐやるべきこと」を網羅的にまとめます。
1. FBA(外国人事業法)改正
→ 詳細記事:タイ外国人事業法(FBA)が25年ぶりの大改正へ
改正の方向性(概要)
1999年制定のFBAが、25年ぶりの大改正に向けて動いています。2025年4月に改正方針が閣議で原則承認されました。
| 論点 | 現行 | 改正方向性 |
|---|---|---|
| 外国人の定義 | 外国資本51%超 | 業種・投資額に応じた柔軟な基準へ |
| 規制業種リスト | 附表1〜3 | 一部業種の100%外資開放を検討 |
| 名義株主取締り | 調査強化中 | 46,918社調査(2025年4月) |
今すぐやること
- 自社の事業がFBA規制業種(附表1〜3)に該当するか確認する
- 合弁(JV)の株主間契約(SHA)に持分変更条項があるか点検する
- 名義株主を利用している場合は早期に是正を検討する
2. 労働者保護法(LPA)改正
→ 詳細記事:タイの産休が120日に延長、配偶者休暇15日も新設(施行済み)
✅ 施行済み(2025年12月7日)
労働者保護法(第9号)が2025年12月7日に施行されました。まだ就業規則・給与計算を対応していない企業は早急に対応が必要です。
| 項目 | 改正前 | 改正後(施行済み) |
|---|---|---|
| 産休 | 98日 | 120日 |
| うち有給(雇用主負担) | 45日 | 60日(100%) |
| 配偶者休暇 | なし | 15日(100%) |
| 新生児ケア休暇 | なし | 最大15日(50%) |
| 雇用状況報告書 | 要請時のみ | 毎年1月自主提出(10名以上) |
今すぐやること(施行済み)
- 就業規則を改定する — 産休120日・配偶者休暇15日を明記
- 給与計算システムを変更する — 有給60日・配偶者休暇100%に設定
- 雇用状況報告書を確認・提出(2026年1月期限、未提出なら即対応)
- 配偶者休暇の90日以内という期限を管理職・HR担当者に周知
3. BOI新規則
→ 詳細記事:タイBOI新規則2025
変更の方向性(概要)
2024〜2025年に実施・公表されたBOI奨励条件の見直し。コンプライアンス強化と新業種拡充が同時進行しています。
| 論点 | 変更内容 |
|---|---|
| 外国人雇用基準 | 業種・規模に応じた柔軟な基準へ移行 |
| 土地所有特権 | 使用目的の解釈が厳格化 |
| 新奨励業種 | EV・半導体・データセンター・グリーンエネルギー等 |
| コンプライアンス | 条件遵守の確認が強化 |
今すぐやること
- 既存BOI奨励の遵守状況(外国人比率・土地使用目的・年次報告書)を総点検する
- 自社の事業が新奨励業種カテゴリに該当するか確認する
- FBA改正とBOI奨励の組み合わせ戦略を再設計する
4. 反贈賄・腐敗防止法制の強化
→ 詳細記事:タイ反贈賄法の強化動向
強化の方向性(概要)
民間部門への適用拡大・内部告発者保護の整備・NACC/DSIの調査権限強化が三位一体で進んでいます。
| 論点 | 現状・方向性 |
|---|---|
| 民間贈賄 | 規制対象拡大の方向 |
| 内部告発者保護 | 民間従業員への制度的保護を整備中 |
| CPI順位 | 108位/180か国(2024年)—依然として高リスク |
今すぐやること
- 贈賄防止ポリシーをタイ語で明文化し、全従業員から署名取得する
- 接待・贈答の承認プロセスと記録保管の仕組みを整備する
- 代理店・ブローカーとの契約に反贈賄条項を盛り込む
5. 関税de minimis廃止
→ 詳細記事:タイの関税de minimis廃止とEC事業への影響
変更内容(概要)
2024年7月1日に施行済み。1,500バーツの少額免税基準が廃止され、すべての輸入品が関税・VAT対象に。
| 論点 | 変更前 | 変更後 |
|---|---|---|
| 少額免税基準 | 1,500バーツ以下は免税 | 廃止(全額課税) |
| 対象 | 宅配・郵便・越境EC含む | 同左(全件対象) |
| FTAの活用 | AJCEP・JTEPA活用可 | 活用価値がより高まる |
今すぐやること
- タイ向け商品の関税率(HSコード)とVAT込みのランデッドコストを再計算する
- 日本直送からタイ現地フルフィルメントへのモデル転換可能性を検討する
- FTA特恵税率(AJCEP・JTEPA)の適用可能性を確認する
総合アクションチェックリスト
すべての日系タイ進出企業に共通する「優先度の高いアクション」を以下にまとめます。
【緊急:施行済み・今すぐ対応】
- 労働者保護法(第9号)対応 — 就業規則改定・給与計算変更・雇用状況報告書提出(2025年12月7日施行済み)
- 関税de minimis廃止への対応(ランデッドコスト再計算・物流モデル見直し)
- BOIコンプライアンスの総点検(外国人比率・土地使用・年次報告)
- 贈賄防止ポリシーのタイ語化・従業員への周知
【重要:今のうちに準備すべき事項】
- FBA規制業種への自社事業の該当確認
- JV株主間契約(SHA)の持分変更条項の確認・整備
- 名義株主の是正検討(是正にはスキームの再設計と時間が必要)
- 新BOI奨励業種への該当確認と申請検討
【注視:動向を継続的に追うべき事項】
- FBA改正の法案化・国会審議の進捗
- 労働者保護法追加改正案の動向(年休10日化・家族介護休暇・生理休暇拡大等、現在審議中)
- OECD加盟プロセスのスケジュール
- BOI奨励条件の年次改定
まとめ — 「変化の波」を先取りするために
タイの法制度は、OECD加盟プロセスという大きな潮流のもとで「国際標準化」の方向へ急速に動いています。個々の法改正を「自社に関係するかどうか」だけで判断するのではなく、この大きな流れの中で自社の進出戦略・コンプライアンス体制・ビジネスモデルを見直す機会として捉えることが重要です。
変化を先取りし、適切な対応を早期に進めることが、競合他社に対する差別化につながります。当事務所では、これらすべての法改正テーマにわたり、日本法とタイ法の両面から包括的にサポートいたします。
各テーマについてのご相談・詳細確認は、お気軽にお問い合わせください。
本記事はタイの法制度に関する一般的な情報提供を目的としており、タイ法に基づく法的助言を構成するものではありません。具体的な案件については、タイの弁護士資格を有する専門家にご相談ください。当事務所では提携先JTJBのタイ人弁護士と連携して対応いたします。