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legal 2026.04.13 約10分

【2026年4月施行】タイのノミニー規制強化と外国人事業法10業種規制緩和|日系企業が今すぐ確認したいポイント

2026年4月1日施行のDBD命令No.1/2026によるノミニー対策強化と、同時進行する外国人事業法(FBA)10業種規制緩和を一体的に整理します。「取締り」と「緩和」という一見矛盾する動きの背景と、日系企業が今すぐ点検したい論点を解説します。

タイで2026年4月1日から、DBD(商務省事業開発局)の新命令No.1/2026が施行され、ノミニー(名義貸し)対策が一段と強化されました。一方で同じタイ政府は、外国人事業法(FBA)の規制業種リストから10業種を除外する方針を打ち出しており、一見すると「取締り強化」と「規制緩和」が同時進行しています。両者は矛盾するものではなく、「正規ルートの外資は歓迎、脱法的なノミニー構造は許さない」という一貫した方針の表裏と整理することができます。本記事では4月1日施行の新ルールと10業種除外を一体的に整理し、日系企業が今すぐ点検しておきたいポイントを示します。3月の状況については前回記事「タイ商務省、ノミニー取締りを強化」もあわせてご参照ください。


なぜ今ノミニー規制が強化されているのか

FBAとノミニーの基本構造

タイの外国人事業法(Foreign Business Act B.E. 2542 / 1999年)は、附則2・附則3に掲げる業種について、外国人(外国人が株式の過半数を保有する法人を含む)の事業参入を制限しています。この制限を回避するために、形式上タイ人を株主に置きながら実質的には外国人が支配する「ノミニー構造」が長年問題視されてきました。FBA第36条は名義貸し行為に対し、3年以下の懲役もしくは100万バーツ以下の罰金、またはその併科を定めています。

日本の感覚で言えば、外為法の対内直接投資規制は事前届出制・事後報告制が中心で、特定業種について「外国人が過半数を持つ法人は参入不可」というほど包括的な制限はありません。FBAは日本にない仕組みであり、タイで事業をするうえでの独特のハードルとして理解しておきたいところです。

OECD加盟をにらんだ透明化

2025年から2026年にかけて、タイ政府はOECD加盟に向けた投資環境の透明化を進めており、その一環として「正規の外国投資は歓迎するが、脱法的な構造は徹底的に排除する」という方針を明確に打ち出しています。後述する4月1日施行の新命令とFBA10業種除外は、この方針が同時に動き出したものと位置づけられます。


ノミニー規制強化 — DBD命令の4本柱

DBDは2026年に入ってから、ノミニー対策のために4つの命令を順次施行しています。最初の3つ(2026年1月1日施行)は審査の基盤づくり、最後のNo.1/2026(4月1日施行)が決定打、という構成です。

2026年1月1日施行の3命令

DBD命令No.2/2568 — タイ人株主の銀行口座明細提出 外国人株主のいる会社にタイ人が新たに株主として加わる場合、直近3か月分の銀行口座明細の提出が義務付けられました。タイ人株主が出資金を自己資金で賄ったことを財務的に裏付けさせる趣旨です。日本の会社法では払込金保管証明(第34条)はあるものの、株主の資金源そのものまで証明させる制度はないため、タイの方が一段踏み込んだ審査になっていると言えそうです。

DBD命令No.3/2568・No.5/2568 — 既存法人のリスクスクリーニング 新設法人だけでなく、既存法人についてもノミニー構造のリスク評価を行う制度が導入されました。報道によると、DBDは11万社を超える既存法人を調査対象としているとされます(この数字は一部報道に基づくもので、DBDの正式公表数値ではありません)。

DBD命令No.4/2568 — 5社ルール(バーチャルオフィス対策) 同一住所に5社以上が登記されている場合、物件所有者の正式な同意書、間取り図、使用権の証拠書類の提出が求められるようになりました。コワーキングスペースやサービスオフィスを登記住所として利用している日系企業は、同一住所の登記企業数が5社を超えていないか、念のため確認しておきたいところです。

2026年4月1日施行のDBD命令No.1/2026 — ノミニー対策の決定打

この4月1日施行命令は、ノミニー対策として次の措置を導入した点に特徴があります。

(1) タイ人取締役の4項目宣誓義務 新設・変更を問わず会社登記申請の際、タイ人取締役は次の4項目について宣誓する必要があります。

  1. 全株主が真正に投資し、自己資金で株式の対価を支払ったこと
  2. 外国人のために名義を貸し、法律を潜脱するノミニー行為に加担していないこと
  3. 虚偽の宣誓を行った場合、タイ刑法に基づく刑事罰(公務員に対する虚偽申告罪等)が科される可能性があることの認識
  4. 当局が法執行機関と情報を共有することへの同意

虚偽宣誓自体に独立した刑事罰リスクが組み込まれている点が、これまでとの大きな違いです。

(2) 変更登記時の株主本人出頭義務化 4月1日以降、会社の変更登記(取締役変更・資本変更など)の際には、株主の本人出頭が原則として必要になりました。従来認められていた委任状(Power of Attorney)による代理手続きは廃止されています。設立時は適法でも、設立後に取締役や株主をノミニーに差し替える「設立後の抜け穴」を塞ぐ趣旨と整理できます。

実務上のインパクトとして、日本本社の人事異動でタイ子会社の取締役を交代する場合や、増資手続きを行う場合など、従来は委任状で済んでいた手続きに本人出頭が必要になる場面が出てきます。出張スケジュールや決議のタイミングを早めに調整しておくと安心です。

(3) 重点監視地域・業種 DBDはプーケット・パタヤといった観光都市を重点監視地域として位置づけ、観光・ホスピタリティ、不動産、大麻関連事業でのノミニー利用を集中的に確認していると報じられています。


FBA規制リストから除外される10業種

DBDは2026年1月29日の公開セミナーで、FBA附則の規制業種リストから次の10業種を除外する方針を発表しました。これらの業種では、外国人事業ライセンス(FBL)やBOI認可を取得しなくても、原則として外国資本主導での事業運営が可能になる方向です。なお、各業種の詳細な定義や施行スケジュールは今後の正式発表を待つ必要があります。

#除外対象業種想定される対象範囲
1通信サービス(Type 1)自社通信ネットワークを持たない事業者
2トレジャリーセンター業務為替管理法に基づく関連会社間の外貨管理・交換
3ソフトウェア開発業(4分野限定)データ管理・分析、サイバーセキュリティ、先端技術機器の制御・接続、製造業支援
4グループ会社向け経営管理サービス関連会社・グループ会社向け
5グループ会社向け国内信用保証業務関連会社・グループ会社向け
6電子金融機器・自動販売機の設置スペース賃貸業
7石油掘削サービス業
8担保付貸付業証券取引法・デリバティブ法に基づくもの
9デリバティブ関連の代理・販売・コンサルティング・ファンドマネジメントデリバティブ法対象外のもの
10伝統的農産物に関する国内取引

日系企業に影響が大きいと考えられる3業種

ソフトウェア開発(4分野限定):今回の対象は「データ管理・分析」「情報セキュリティ・サイバーセキュリティ」「先端技術機器の制御・接続」「製造業支援」の4分野に限定されているとされています。一般的なWebサイト制作やコンシューマー向けスマホアプリ開発は対象外となる可能性があるため、自社事業がどの分野に属するかは個別に確認することが大事でしょう。タイに開発拠点を持つIT企業や、DXを進める製造業にとっては、現地法人の株主構成を改めて点検する一つのきっかけになると思います。

通信サービス(Type 1):自社ネットワークを持たないMVNO型・OTTサービス等が対象とされています。大規模な通信インフラを保有するType 2/3は引き続きFBA規制の対象です。

トレジャリーセンター業務:タイを地域統括拠点とするグループ企業の外貨・資金管理を担う機能であり、従来はBOI認可を通じてFBA規制を回避するルートが取られてきました。今回の除外により、BOI認可の条件に縛られない選択肢が生まれる方向にあると言えます。

日本の外為法は事前届出制・事後報告制が中心で、安全保障分野の審査を除いて業種別の包括的な持株比率制限はありません。タイのFBAは日本にない仕組みなので、「規制リストから外れた業種」「依然として規制対象の業種」を整理し直すことが、進出形態の見直しの出発点になります。


「取締り強化」と「規制緩和」の戦略的整合性

ノミニー取締り強化とFBA10業種除外は、一見すると逆方向の動きに見えますが、次のような一貫した方針の両面と整理できます。

  • 合法的に外資を受け入れられるルートを広げ、ノミニー構造を使う「必要性」を減らす
  • それでも脱法的な構造を続ける者については、4月1日施行の新ルールで実効的に取り締まる
  • OECD加盟をにらみ、投資環境の透明性を国際的に説明できる形に整える

つまり、「外資は歓迎するが、ルールは厳格に運用する」というメッセージを制度全体で発しているわけです。


日系企業が今のうちに点検しておきたい5つのポイント

過度に不安を煽るつもりはありませんが、4月1日施行の新ルールとFBA改正の動きを踏まえると、在タイ日系企業として次の5点を一度棚卸ししておくことをお勧めします。

  1. 株主構成の点検:タイ人株主がいる場合、その出資が真正性のある自己資金によるものかを確認しておく。今後の変更登記の際に銀行口座明細の提出を求められる場面に備える観点からも有用です。
  2. 登記住所の確認:コワーキングスペース・サービスオフィスを登記住所にしている場合、同一住所の登記企業数が5社を超えていないか、運営事業者に確認する。
  3. FBA10業種除外の活用余地の検討:自社事業が除外対象10業種のいずれかに当てはまる場合、ノミニー構造に依存している部分を解消し、100%外資ベースの体制に移行できないかを検討する余地があります。該当するかの判断は専門家と相談されるのが安心です。
  4. 変更登記スケジュールの見直し:取締役変更・増資など変更登記が予定されている場合、株主の本人出頭が必要になる前提でスケジュールを組み直す。
  5. 専門家への早期相談:DBDの調査が本格化する前に、現状を棚卸しし、必要に応じて是正計画を立てておく。是正の方向性は会社ごとに大きく異なるため、画一的な答えはありません。

ノミニー構造に現在依存している企業にとっては、頭の痛い話に感じられるかもしれません。ただ、規制環境が変わったいま、過去の構造を維持し続けるよりも、専門家と相談しながら段階的に見直していく方が、結果的にリスクを抑えられる場面が多いと思います。


まとめ

  • 2026年4月1日施行のDBD命令No.1/2026により、ノミニー対策が一段と強化された
  • 1月1日施行の3命令と合わせて「銀行口座明細」「リスクスクリーニング」「5社ルール」「4項目宣誓・本人出頭」という4本柱が出揃った
  • 同時に、FBA規制業種リストから10業種を除外する方針が示され、ソフトウェア開発・通信Type1・トレジャリーセンター等で外資主導の事業運営の余地が広がる方向にある
  • 「取締り」と「緩和」は矛盾するのではなく、「正規ルートを広げ、脱法は厳しく取り締まる」一貫した方針の両面
  • 日系企業としては、株主構成・登記住所・変更登記スケジュール・FBA活用余地を一度点検することをお勧めしたい

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タイにおける外資規制・会社法務に関するご相談を承っております。株主構成の見直し、FBA規制緩和の活用余地、ノミニー構造の段階的な是正計画など、日本法・タイ法の両面からアドバイスいたします。タイ法固有の論点は提携先JTJB International Lawyersのタイ人弁護士と連携して対応いたしますので、お気軽にお問い合わせください。


本記事は2026年4月時点の公開情報に基づくタイの法制度に関する一般的な情報提供を目的としており、タイ法に基づく法的助言を構成するものではありません。具体的な案件については、タイの弁護士資格を有する専門家にご相談ください。当事務所では提携先JTJBのタイ人弁護士と連携して対応いたします。

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