このシリーズについて タイでビジネスをしていると、「日本では考えられない」トラブルに出くわすことがあります。このシリーズでは、日系中小企業によくある法的トラブルのパターンを、できるだけ平易なコラム形式でご紹介します。(最終回)
タイの入国管理官が、パスポートと労働許可証を交互に見た。そして静かにこう言った。「これ、合ってないですね」——もしその瞬間があなたの赴任社員だったとしたら、あなたの会社はどう対応しますか?
「タイで働く」のに必要なもの
タイで外国人が就労するには、原則として二つが揃っている必要があります。
- 適切な種別のビザ(ノンイミグラントBビザ等)
- 労働許可証(Work Permit)
この二つが揃って初めて、合法的に就労できます。問題は、この組み合わせが思いのほか簡単にずれてしまうことです。
よくある落とし穴
① 観光ビザ・トランジットビザでの就労
短期出張や視察のつもりで入国し、そのままミーティングや業務指示を行ってしまうケース。タイでは「就労」の定義が広く、現地スタッフへの業務指示や顧客との商談も「就労」に該当しうると解釈されることがあります。観光ビザやビザ免除での入国では、そもそも就労は認められていません。
② ビザの種別と労働許可の不一致
ノンイミグラントBビザを持っているが、労働許可証に記載されている事業者・業務内容が実態と合っていないケース。たとえば、グループ会社Aで労働許可を取得しているのに、実際の指揮命令や給与支払いはグループ会社Bから行われている——これは形式上の違反になりうる状況です。
③ 更新忘れ・手続き漏れ
ビザと労働許可はそれぞれ有効期限があり、連動して更新が必要です。担当者の退職・引き継ぎ不足・リマインダーの不備等で、気づかないうちに期限切れになっているケースがあります。
④ 転籍・出向に伴う手続き漏れ
日本本社からの出向者がグループ内で異動・転籍した際、ビザや労働許可の名義変更・再取得が必要になることを見落とすケース。「前と同じ人が同じオフィスにいる」だけでは、法的要件は自動的には満たされません。
違反が発覚した場合のリスク
就労ビザ・労働許可違反は、タイの出入国管理法・外国人就労法等に基づく違反となり、発覚した場合には:
- 本人への罰則:罰金、強制退去(デポート)の可能性
- 会社への影響:労働許可の取消し・再取得困難、罰金
- 事業継続への影響:キーパーソンが突然就業不能になるリスク
規模の小さい拠点では、社長や工場長が「実は違法就労だった」ということになると、事業継続に直接影響が出かねません。
予防のためのチェックリスト
- 在タイの日本人社員・役員全員のビザ種別と有効期限を確認する
- 労働許可証の事業者名・業務内容が現在の実態と一致しているか確認する
- 出張者が「就労」に該当する活動をしていないか見直す
- 更新スケジュールをカレンダー管理し、期限の3ヶ月前にはアクション開始
- グループ内転籍・出向が発生した際の手続きフローを確認する
このシリーズを通じて
5回にわたってタイビジネスのトラブルあるあるをご紹介してきました。退職金・合弁決裂・代金未払い・横領・ビザ——どれも「事前に知っていれば防げた」という共通点があります。
法律は「知っている人を守る」制度です。タイの法環境は日本と異なる部分が多く、日本での常識がそのまま通用しないことも少なくありません。「何かあってから」ではなく、「何かある前に」専門家に相談することが、中長期的なビジネスの安定につながります。
ビザ・労働許可の現状確認、在タイ日本人社員の法的ステータス見直しなど、お気軽にお問い合わせください。
本記事はタイの法制度に関する一般的な情報提供を目的としており、タイ法に基づく法的助言を構成するものではありません。具体的な案件については、タイの弁護士資格を有する専門家にご相談ください。当事務所では提携先JTJBのタイ人弁護士と連携して対応いたします。